KLab社長 真田哲弥のブログ

KLab株式会社(クラブ)社長 真田哲弥が経営者対談を行い、ビジネスアイデアをお伝えするブログです。

タグ:M&A

人口知能を使ったユニークなM&Aマッチングビジネスを展開しているM&AクラウドCOOの及川厚博さんとの対談。後編は、私、真田が考える「M&A仲介ビジネスの未来のカタチ」。

これからの「宝物」はITから縁遠い業界の専門知識
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真田
ぼくが「これからは事業承継型の方がいい」と言っているのには、スタートアップがバブル的な様相を呈しているということ以外にも理由があります。

ほとんどのネットベンチャーのビジネスって、それまでになかった全く新しいビジネスではなくて、以前から存在した伝統的なビジネスをIT化した、ネット化したものでしょ。たとえば楽天なら「IT×小売」みたいに、「IT×●●」という公式で現わせます。

そして、今まで大きくなったネットベンチャーって、「●●」の側に強みがあったわけじゃなくて、「IT」の側に強みがありました。今まではITの技術や考え方に希少性があって、価値があったんです。

でも今では、「●●」の側の専門知識がなくてもできる領域は、かなりやり尽くされてしまいました。もちろん、技術の進歩やデバイスの変化によって新しいビジネスチャンスはいくらでも生まれてくると思います。でもそこはみんなが狙っていて、競争はとても激しいだろうな。

昔と違って「IT」はコモディティ化して、あたり前のことになってしまったからです。「IT」の部分で差別化することはとても難しくなりました。

そこで、 「IT×●●」型のビジネスにおいて、「IT」の希少性が弱まり、相対的に価値が低くなったために、「●●」の持つ重要性が高まっているんです。

つまり、IT×農業、IT×運送屋など、●●は何でもいいんだけど、それぞれの業界における経験・知識・技術・人脈などがとても大切になってきています。

そのため、“その業界”のビジネスを長年やってきたからこそわかる課題、それをIT技術を使って解決するというタイプのスタートアップが増えてきています。

しかも、“その業界”がITから遠ければ遠いほど競争は少ない。ですから、技術力があるIT企業にとってその技術を生かせるM&Aとは、必ずしもITベンチャーだけではなく、ITから縁遠い業界でその業界における経験・知識・技術・人脈などをしっかり持ったレガシーな企業も選択肢に入ってくるはずです。
 
及川
なるほど。たとえば老舗の温泉旅館の売却希望案件も、やり方・考え方によっては有望ということですか。
 
真田
そう思います。温泉行きたいですね~(笑)

次の一手、真田の提案 “サムライネットワークの活用”
s_7及川さん
真田
ところで、M&Aクラウドの売上を分解すると、次のような式になりますよね?

(成約金額 × 0.03) × (売り手の応募件数 × 成約率)

つまり、売上を増やすためには、成約金額か応募件数か成約率、という3つのKPIのどれかを上げなければならない。そのためには、まずそれぞれのKPIが上がらない原因や課題を考える必要があるよね。

さきほどの及川さんの話では、「将来展望が描けず、業績のよくない『売却希望』が増える傾向にあります」とのことでした。将来展望が描けないから、成約金額が低く、成約率も低くなってるんだと思う。

だったら、将来展望を描いてあげればえーやん!

今の業績は良くないけど、こんな将来展望がある。あるいは、こんな機能がある会社が買えば、こんなシナジーによって業績は向上するというプランも付けて売却するんです。そうすれば成約金額も成約率も上がるんやないかな。

もともと時価評価が高い売却希望会社は、競合のM&A会社もみんな欲しいはず。そんなおいしい会社を後発組で実績の少ないM&Aクラウド社が獲得するのは難しいんでない? だったら、もともとの時価評価を高めて売ってあげる手法は研究する価値があると思うな。

もしもそれができれば、圧倒的な競合優位が築ける。「売り手」の件数は激増するだろうね。

こんなアイデアはどうでしょう。まず、M&Aクラウドのプラットフォームの上でフリーランスのコンサルタントを募集して登録してもらい、登録コンサルたちに無料で、売却希望会社の将来計画や再生プランを出してもらう。

そして、採用された提案・プランにだけお金を払うんです。さらに、Value addedできた金額、すなわちもともとの売却金額から引き上げることができた金額をレベニューシェアする。

これなら、御社はノーリスクでトライすることができるよね。こんな仕組みがあったら、登録したいコンサルはたくさんいると思いますよ。

たとえば、税理士や司法書士、公認会計士、中小企業診断士などの士業のひとたち。こうした分野の有資格者は増えすぎて、メシが食えなくなってきています。

この士業の人たちにとって大きな金額が動くM&Aは魅力的なはずです。こうした“士業ネットワーク”が構築できれば、御社の強みになるんやないかなぁ。地場産業の経営者に密着した士業の方々からの売却希望企業の持ち込み紹介もあるかもね。

もし「閑古鳥が鳴いていた温泉旅館を、M&Aによってこう変えて再生させました」といった事例をつくることができれば、「魅力がない」と見向きもされなかったような企業・業界でもM&Aを盛んにさせることができそうです。

売却した企業も買収した企業もハッピーになれ、その間で企画提案したコンサル・士業の人もハッピー。再生した温泉旅館で、ゆったりと温泉につかることができたら、ぼくもハッピーになれそうです(笑)
 
及川
今日はいろんな視点をもらえました。ありがとうございました。
s_8及川さん
==対談後記==
M&A仲介ビジネスは、IPOをする会社が続々と現れる状況を見ると、一見すでにレッドオーシャン化しているように思うかもしれない。でもぼくはそう思わない。

日本のM&A仲介ビジネスは、ちょうど20年前頃の人材ビジネスと似ているような気がする。今から30年前ごろから、日本独特の終身雇用制度が崩れ、経営者や労働者の意識が変わっていった。

それによって、転職や派遣のビジネスが勃興した。2000年にはすでにリクルートなどの大手によって市場は寡占化していた。その頃すでに、人材市場にはスタートアップなどの新参者が割り込む余地など無いように見えた。

ところがどうだろう。その後の歴史が証明しているように、次々と新しい人材ビジネスが成長していった。

M&A仲介ビジネスも、日本の経営者の意識が変わったことにより、市場が生まれた。日本の経営者の意識はもっと変わっていくだろう。それによって市場はますます大きくなり、そして変化していくはずだ。それにともなって、M&A仲介ビジネスの新しい形が生まれるはず。

この市場はまだまだチャンスはある。M&Aクラウドにも大きな可能性があると感じた。


==今回の対談相手==
及川 厚博(おいかわ あつひろ)さん
M&Aクラウド 代表取締役 COO
大学在学中、ITベンチャーMacropusを立ち上げる。facebookページの作成運用事業、インドネシアを中心としたオフショア開発事業を展開し、4年で経常利益数千万円まで成長させ、2015年に同業他社に事業売却。その他、大学生向けスペース事業おいカフェ、医師監修の予防医療メディアDr.Noteなどを手がけた。自らの売却を通し、M&Aにテクノロジーが使われていなかった経験から、M&Aクラウドを前川拓也氏(M&Aクラウド代表取締役CEO)と共同創業する。2016年IVS Launch Padファイナリスト。
会社概要設立:2015年12月7日 URL :https://macloud.jp/  お問い合わせ先:https://macloud.jp/contact
 
<及川さんよりメッセージ>
日本の株式会社は247万社。うち62万社が60歳以上で後継者不在。一年間のうちに廃業する会社の3万社が黒字という状況。売却を考えてもどうしたらいいか全く分からない上に、相談しにくいなどの問題があります。「M&Aクラウド」は匿名での企業価値算定を始め、買収企業の募集およびクロージングまでを支援します。

今回の対談相手はM&AクラウドCOOの及川厚博さん。人口知能を使ったユニークなM&Aマッチングビジネスを展開しているスタートアップ経営者です。独自スキームを詳しく解説したサービス概要動画も御覧ください。
◆斬新なアイデアのM&Aマッチングのプラットフォーム
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及川
当社はM&Aマッチングのプラットフォームを運営しているスタートアップです。創業は2015年12月、サービスは昨年6月にローンチしました。

特徴は「会社を売りたい人」は匿名性を保ったまま、人工知能によって売却可能価格を算定し、M&A業者の比較もできる点です。最終的には買収したい企業とのマッチングまでできます。

売却を希望するユーザーは、これらの機能・サービスを全部、無料で利用できます。「誰にも知られずに買収先を集めることが可能」。これが当社のキャッチフレーズです。
 
真田
とすると、買収したい側からマネタイズしているわけですか?
 
及川
はい。M&Aが成立したら、M&A仲介会社から仲介手数料の30%をいただきます。
 
真田
マッチングビジネスには違いないんだけど、「片一方」だけを集めてマネタイズしている仕組みなんですね。

マッチングは「売り手」と「買い手」の両方がいないと成立しません。だから、フツーは「売り手」と「買い手」の両方を集めようとします。

でも、及川さんは「買い手」は自分で集めようとせず、片一方の「売り手」だけを集め、既存のM&A仲介業者を活用し、成功報酬をレベニューシェアしようと。そういうことですね。

ぼくがM&Aのマッチングビジネスを立ち上げるとしたら、同じ仕組みにするでしょうね。なぜなら、その方がスタートアップが成長しやすいですからね。
 
及川
なぜですか。
 
真田
では、まずマッチングビジネスの概念から説明しましよう。

マッチングビジネスとは、言うまでもなく「売り手」と「買い手」の間に入って売買の手数料やシステム利用料・広告掲載料などを得るビジネスモデルのこと。たとえば、AirbnbやUberはシェアリングエコノミーと言う文脈で語られることが多いけど、この2社も典型的なマッチングビジネスです。

シェアリングエコノミー関連以外にも、昔からリクルートが手がけているような不動産、中古車、人材などもマッチングビジネスの代表例ですね。

AirbnbやUberが成功して以降、日本でも類似のシェアリング型マッチングビジネスが雨後のタケノコように現れました。しかし、順調に成長している会社は多くありません。その理由を考えてみると、面白いよ。

◆『ヤジロベエのジレンマ』
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真田
マッチングビジネスが成長できない、または成長に時間がかかる1番の理由は 『ヤジロベエのジレンマ』を打破できないことですね。

『ヤジロベエのジレンマ』を知らないの?そらそうだ、ぼくが作った造語だから(笑)。
ヤジロベエは知ってるよね? ヤジロベエのどちらか一方に重りを乗せると倒れてしまう。だから重りを乗せることはできません。それと同じように、「売り手」も「買い手」も小さい規模でバランスしていて、小さい規模から抜け出せない状態を指しています。

「買い手」が少ないから「売り手」が集まらない、「売り手」が少ないから「買い手」が集まらない。「買い手」が少ないのに「売り手」を集めると「買い手」から不満が出て「買い手」は抜けていく。マッチングビジネスのスタートアップが成長するためには、このヤジロベエのジレンマを打破しなければなりません。

でもオーガニック獲得だけではこのジレンマから抜け出せません。だから、何らかの戦略が必要になります。

『ヤジロベエのジレンマ』を打ち破る戦略はいろいろあります。最もシンプルなのが「初めから片方しか集めない」と言う戦略。M&Aクラウドの及川さんはまさにこのやり方ですね。
中古車流通の場合の買取専門業者や、賃貸不動産の客付けを専門に行う賃貸仲介会社などもこれにあたります。


中古車の買取専門店の例で説明しましょう。
買い取った中古車を自分でお客様に販売する中古車店をやっていたとしましょう。例えば、10人のお客様が中古車を売りに来たとしても、買えるのは2~3台かもしれませんね。なぜなら売れそうな台数しか買えないからです。これが『ヤジロベエのジレンマ』です。
それに対して、買取専門店なら10台全部買えます。買った中古車が売れそうかどうかなんて考えない。全部買って、業者間オークションに全部流すだけだから。

そう、買取専門店のポイントはオークションと言う既存の流通の仕組みを活用していることなんですね。M&Aクラウドの仕組みも同じですね。集めた売り手の会社を既存の流通の仕組みであるM&A仲介会社にマッチングするわけですから。
「売り手」と「買い手」両方を集めようとすると、初期は手数料無料にしてどちらかを集めるなど、多くの場合、黒字転換するまでに時間がかかります。両方を集めるとなるとマーケティングコストもかかります。

それに対して、片方を既存流通に依存すると、初期から粗利を上げることができます。だから黒字化が早いんです。

一方で、買取専門の場合、両手で利益をあげるビジネスに比べて利益率が低いから、数をこなす必要があり、「売り手」を大量に集められる戦略がなければ成立しません。及川さんのM&Aクラウドの「売り手」を大量に集めるための戦略とは、匿名性の確保や人工知能による売却可能価格算定なんでしょうね。
 
及川
なるほど。いま自分たちがやっているビジネスに、自信をもっていいんですね。
 
真田
目の付け所は正しいと思います

◆「スタートアップ」はバブルの様相
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及川
ところで、業績のよくない会社ではM&Aの成約金額が抑えられるため、「より成約時の金額が高いスタートアップやITベンチャーの集客強化」の検討が社内で議題にのぼっているんですが、それについてはどう思われますか。
背景には、ここ最近、M&A仲介会社のIPOが続いているなど、この業界は急成長していますが、事業承継型のM&Aは競争が激しくなってきているほか、将来展望が描けず、業績のよくない「売却希望」が増える傾向にある、ということがあります。
 
真田
ぼくはそれにはあんまり賛成できないな。理由はふたつあります。

まずひとつ目は、近年、スタートアップやITベンチャーの企業価値(算定価格)が高騰してバブル的な様相を呈していることです。

昔に比べるとスタートアップの企業数はずいぶん増えました。それ以上にVCの数とベンチャー投資の資金が増えました。スタートアップ、ベンチャーが成長資金を獲得しやすくなっているという点ではとても良いことです。

でも、資金の供給が需要を上回ったことによって、スタートアップ企業の時価総額は実態の価値より高くなってしまった。それで「売上は5,000万円、まだ赤字だけど時価総額は5億円」みたいなことが起こっています。

スタートアップの数も増えたし、スタートアップ情報専門のメディアができたりして情報も豊富になりました。だから、流行のビジネスモデルにたくさんのスタートアップが群がっているような状況です。

実際、キュレーションやシェアリングエコノミーといった流行の領域には、似たような企業がたくさんありますよね。

でもインターネットのビジネスで利益が出るのは上位の3社くらいまで、です。残りの会社の経営はとても厳しい。そういう意味で、事業承継型よりもIT系のスタートアップの方が業績の悪い会社が売りに出る率は高いんじゃないのかな。

だけど、その割に価格が高止まりしてしまっています。VCも出資した時よりも低い価格に下げて売りたくないですから。そうなると、IT系のスタートアップは買収してもなかなかペイしません。だから、買える会社は限られてくる。もともとユーザーやPVがあって、それを活かせる会社とかね。

こうした状況から考えると。確かにIT系のスタートアップの方が成約すれば成約金額がデカいと思います。けど、成約率は低いんやないかな。
(後編に続く)  
 

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